法人破産は従業員にいつ伝える?経営者が知るべき給与・解雇の対応

法人破産を従業員に伝える時期は「事業停止の当日・直前」が多い

会社の資金繰りが限界に達し、法人破産を決断せざるを得ない状況になったとき、経営者様が真っ先に頭を悩ませるのが従業員への対応です。「これまで会社を支えてくれた従業員には、少しでも早く伝えて次の就職先を探す時間を与えたい」と考えるのは、経営者として当然の親心であり、強い責任感の表れでもあります。

しかし、破産実務における情報管理の観点から結論を申し上げますと、労働組合との労働協約や就業規則等で解雇の事前協議・同意義務が定められている場合を除き、密行型(秘密裏に準備を進める方式)で事業を廃止する事案では、従業員への破産告知は「事業停止日(いわゆるXデー)の当日、またはその直前」まで伏せて進めるのが一般的です(※労働協約等に事前協議条項があるにもかかわらず無断で解雇すると、解雇が無効と判断されるおそれがあるため、事前の規定確認が必須となります)。

「直前まで黙っているなんて不誠実ではないか」と葛藤されるお気持ちは痛いほど分かります。ただ、良かれと思って早期に破産の方針を伝えてしまうと、社内外に情報が漏洩し、破産申立てに向けた準備そのものが頓挫してしまう重大なリスクが生じるのです。準備が頓挫して手続きや公的な認定申請が大幅に遅れれば、従業員が公的な救済措置を受けるまでに時間がかかったり、期限内に手続きを行えなくなったりして、かえって従業員を路頭に迷わせることになりかねません。

従業員のこれからの生活を法的にしっかりと守るためにも、まずは経営者様お一人で秘密裏に弁護士へ相談し、入念な準備とスケジュールを整えた上で告知日を迎える必要があります。

早期に伝えると混乱や情報漏洩を招くリスクがある(密行型の理由)

法人破産の手続きにおいて、事業停止日まで外部や従業員に情報を伏せて準備を進める手法を、実務上「密行型(みっこうがた)」と呼びます。なぜこのように秘密裏に進める手法がとられるのかというと、事前の情報漏洩が以下のような連鎖的なトラブルを引き起こすからです。

  • 従業員の動揺と一斉離職による業務崩壊
    事前に破産を知らされた従業員は、自身の生活への不安からパニックに陥り、一斉に退職してしまう可能性があります。事業停止日までの通常業務が回らなくなるだけでなく、破産申立てに必要な帳簿の整理や資産の保全作業すら行えなくなってしまいます。
  • 取引先や債権者への情報漏洩と混乱
    「誰にも言わないでほしい」と口止めをしても、従業員の家族や親しい取引先などを通じて、噂はあっという間に広がります。破産の噂を聞きつけた取引先が会社に押し寄せ、納入した商品の強引な引き揚げや、売掛金の回収妨害(相殺や差し押さえなど)に動く危険性が高まります。
  • 会社資産の散逸や重要書類の持ち出し
    一部の従業員が、未払い給与の代わりとして会社の備品や在庫、現金などを勝手に持ち出してしまうケースもゼロではありません。裁判所に提出すべき重要書類やパソコンのデータが消去・紛失すれば、破産手続きは極めて困難になります。

このように、現場が混乱して売掛金の回収ができなくなったり資産が流出したりすると、裁判所へ納める「破産申立て費用(予納金)」や、従業員へ支払うべき「解雇予告手当」の原資すら失われてしまいます。会社の資産を適正に守り、それを従業員への支払いや手続き費用に正しく充てるためにも、事前協議義務などの法的制約がない限り、密行型での慎重な進行が重視されるのです。

事業停止(Xデー)から従業員への告知・破産申立てまでの流れ

では、実際に弁護士へ依頼してから従業員へ告知し、破産申立てに至るまではどのようなスケジュールで動くのでしょうか。従業員への告知タイミングに焦点を当てて、標準的な4つのステップを確認しておきましょう。

  1. 秘密裏に弁護士へ相談・依頼(受任)
    経営者様お一人で弁護士に相談し、正式に法人破産を依頼します。この段階ではまだ債権者や従業員には通知を出さず、水面下で準備を開始します。
  2. 事業停止日(Xデー)の決定と事前準備
    売掛金の入金日や給与の支払日、手元資金の状況、就業規則や労働協約における解雇手続規定の有無などを踏まえ、弁護士と協議して事業を停止する「Xデー」を決定します。Xデーは、業務が落ち着く週末(金曜日の夕方など)や月末に設定されるのが一般的です。この日までに、解雇通知書や離職票の準備、当日の説明原稿の作成などを秘密裏に進めます。
  3. Xデー当日:従業員への告知と受任通知の発送
    Xデー当日の業務終了後(または営業開始前)、従業員全員を社内に集め、経営者様と代理人弁護士から事業停止と破産申立ての方針、および解雇について告知します。それと同時に、弁護士からすべての債権者へ「受任通知(弁護士が介入した旨の通知)」を一斉発送し、会社の出入り口に告知文(張り紙)を掲示して事業を完全に停止します。
  4. 速やかに裁判所へ破産申立て
    事業停止による混乱を防ぎ、従業員の未払い賃金に関する救済手続きを迅速に進めるため、Xデーから数日以内(早ければ当日や翌日)に裁判所へ破産手続開始の申立てを行います。

なお、会社の資産整理や代表者ご自身の保証債務の扱いなどを含めた法人破産全体の流れについては、【法人破産の流れを全解説|経営者がすべきこと・費用・影響】で体系的に解説しています。

法人破産における弁護士相談から事業停止(Xデー)・従業員への告知・破産申立てまでの流れを示す図解

残務処理で協力してもらう一部の従業員に伝えるタイミング

原則としてXデー当日まで全員に伏せておきますが、例外的に、一部の従業員にだけ少し早めに事情を伝えて協力を仰ぐケースがあります。

たとえば、売掛金の請求・回収状況や帳簿を管理している経理担当者、あるいは事業停止後も破産管財人(裁判所から選任され、会社の資産を調査・換価する弁護士)の業務に引き継ぎが必要なシステム管理者・現場責任者などです。経営者様だけで帳簿類や債権データを正確に把握できない場合、こうした担当者の協力なしには申立て書類の作成ができません。

この場合でも、何週間も前に伝えるのは危険です。情報漏洩を防ぐため、伝える相手は「本当に信頼でき、かつ実務上どうしても不可欠な最小限の人数(1〜2名程度)」に絞り込み、Xデーの数日前から前日といった直前のタイミングで個別にお話しします。

その際は、守秘義務の徹底を強くお願いするとともに、他の従業員はXデー当日に即日解雇となる一方で、協力してもらう担当者には「30日後の解雇予告」を行って残務処理期間中の給与を支払う(あるいは破産申立て後に破産管財人から日当や報酬という形で支払ってもらう)など、処遇面の条件を弁護士と事前に設計してから伝えることが重要です。

従業員の解雇タイミングと「解雇予告手当」の基本ルール

法人破産を行うと、会社は最終的に消滅(法人格が消滅)するため、すべての従業員を解雇せざるを得ません。そして、従業員が失業保険(雇用保険の基本手当)を1日でも早く受給できるようにするためには、破産手続開始決定を待つのではなく、「破産申立ての前(Xデー当日など)」に解雇の手続きを進めておくことが実務上の基本となります。

ここで経営者様が正確に理解しておくべきなのが、労働基準法に定められた解雇のルールと、破産実務における即日解雇の関係性です。

労働基準法における「30日前の解雇予告」と解雇予告手当の仕組み

会社の倒産・破産に伴う解雇は、従業員の責めに帰すべき事由による解雇(懲戒解雇など)ではなく、典型的な「会社都合による解雇(普通解雇・整理解雇)」にあたります。したがって、破産する場合であっても、労働基準法第20条の解雇予告ルールが厳格に適用されます。

労働基準法第20条では、使用者が労働者を解雇しようとする場合、以下のいずれかの対応をとることを義務付けています。

  • 少なくとも30日前に解雇の予告をする
  • 30日前に予告しない場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う

なお、予告期間と手当を組み合わせることも可能であり、たとえば解雇日の10日前に予告した場合は、残りの日数分である「20日分の平均賃金」を解雇予告手当として支払うことで、予告期間を短縮できます(平均賃金×〔30日-予告日数〕)。

破産するからといって、この法律上の義務が自動的に免除されるわけではありません(※天災事変その他やむを得ない事由で事業継続が不可能となった場合の除外規定はありますが、通常の経営不振による破産はこれに該当しないと解されています)。

解雇予告手当の具体的な計算方法や税務上の取り扱いについて詳しく確認したい方は、以下の解説記事も参考になります。
参照:解雇予告手当の計算と所得税の扱い

「30日前の予告解雇」と「即日解雇」は会社の状況でどう選ぶか

経営者様としては、「30日前に解雇予告をして解雇予告手当の支払いを浮かせるべきか」、それとも「解雇予告手当を支払ってでもXデー当日に即日解雇すべきか」で迷われることと思います。この選択は、労働協約等による事前協議義務の有無を確認した上で、現在の「営業状況(密行性の要否)」と「手元資金の状況」によって判断します。

解雇の方法メリットデメリット・リスク適している会社の状況
Xデー当日の即日解雇(密行型での一般的な対応)・事業停止まで情報が漏れにくく、資産の散逸や債権者の混乱を防げる・従業員が早期に失業保険の手続きに入れる・30日分の「解雇予告手当」の支払い義務が発生する・現在も営業を継続しており、取引先や債権者が多数存在するケース・労働協約上の制約がなく、密行型で進める必要がある事案
30日前の予告解雇(休業中などの対応)・解雇予告手当の支払いが発生しない(通常の給与のみ)・従業員に転職活動の準備期間を与えられる・30日間のうちに情報が外部へ漏洩するリスクが高い・従業員のモチベーション低下や離職で業務が停滞する・すでに事実上休業しており、取引先とのトラブルや資産流出の懸念がないケース・少人数で全員に残務処理を任せるケース
30日前の予告解雇と即日解雇の比較と判断基準

表のとおり、現在も店舗や工場、オフィスを稼働させて営業を続けている場合は、30日前に予告するとその期間中に取引先や債権者へ情報が伝わり、商品の引き揚げや売掛金の回収難航といった支障が生じるおそれがあります。そのため、営業継続中の法人が密行型で破産準備を進める場合は、労働協約等の手続要件にも留意しつつ、慎重に日程を設計して「Xデー当日の即日解雇」を選択するケースが多く見られます。

一方で、すでに事業を停止して店舗も閉鎖しており、債権者からの差し押さえや商品の引き揚げといったリスクが皆無であるようなケースでは、資金を節約するために30日前に解雇予告を行う選択肢も検討されます。

給与や解雇予告手当を払えないときの資金配分と経営者の注意点

「即日解雇を検討したいが、会社に現金が残っておらず、未払いの給料や解雇予告手当を全額支払う余裕がない」という切実なケースは決して珍しくありません。

手元資金が限られている場合、まずは破産手続きを進めるための「破産申立て費用(裁判所への予納金や弁護士費用)」を確保することが重要となります。一定の中小企業では労働基準監督署長による「事実上の倒産」の認定を受けて公的な立替払制度を利用する経路もありますが、裁判所を通じた破産手続が頓挫して会社が放置状態となれば、法的な整理や証明手続が滞り、従業員への救済が大きく遅れる原因となるからです。その上で、残った資金をどのように従業員への支払いに充てるか、そして経営者が注意すべき行為について詳しく解説します。

法人破産時に給与や解雇予告手当が払えない場合の資金配分の考え方と未払賃金立替払制度の対象範囲の図解

資金が限られる場合に「解雇予告手当」の原資確保が検討される理由

申立て費用を除いた手元資金で、従業員に対するすべての労働債権(未払い給与、解雇予告手当、退職金)を支払いきれない場合、どの債権にどう資金を充てるかは、各債権の破産法上の性質(財団債権か優先的破産債権か)や他の優先債権(税金等)の有無、会社の資産状況などを踏まえて弁護士と慎重に判断する必要があります。

【資金配分を検討する際の重要ポイント】
国の救済制度の対象外となる「解雇予告手当」の原資をどう確保するか

実務上、未払い給与や退職金とのバランスを見つつ、「解雇予告手当」の支払い原資を確保できるかが特に重視されるのには、従業員の生活を守るための制度上の理由があります。

それは、国(独立行政法人労働者健康安全機構)が会社に代わって未払い賃金の最大8割(年齢に応じた上限あり)を立て替えてくれる「未払賃金立替払制度」の対象範囲の違いです。

  • 未払い給与・退職金:未払賃金立替払制度の対象になる(退職日の6か月前からの未払い分につき、会社が払えなくても後から国から最大8割が補償される)
  • 解雇予告手当:未払賃金立替払制度の対象にならない(会社や破産財団から支払われなければ、国の制度では1円も補償されない)

このように、未払い給与や退職金(破産法上も一定範囲が財団債権として保護されます)は立替払制度の対象となる一方、「解雇予告手当」は制度の対象外とされています。そのため、未払い額が立替払の上限内に収まるかや、破産財団からの配当見込みなども考慮した上で、国の制度でカバーできない解雇予告手当の原資を確保できるかどうかが、従業員への実質的な補償を考える上で重要な検討課題となるのです。

また、労働基準法第20条により、即日解雇の効力を当日に生じさせるには原則として30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(一部のみを支払う場合は、その日数分だけ予告期間が短縮されるにとどまります)。告知当日の従業員の反発や混乱を抑え、法的に有効な解雇手続きを進めるためにも、手元資金や法的制約を踏まえて解雇予告手当の支払い方法を弁護士と組み立てることが重要です。

どちらも払えない場合の破産法上の扱い(財団債権と立替払制度)

では、手元資金が完全に枯渇しており、解雇予告手当も未払い給与も全く支払えない場合はどうなるのでしょうか。解雇予告手当を支払わずに即日解雇を通告した場合、会社側が「即時の解雇」に固執すると解雇自体が無効と判断されるおそれがありますが、即時解雇に固執する趣旨でない限り、通告から30日が経過した時点で解雇の効力が生ずる(またはその日までの賃金・手当の支払い義務が残る)と解されるのが一般的です。

支払えなかった給与や解雇予告手当は消えてしまうわけではなく、その後の破産手続きの中で以下のように優先的に扱われます。

  • 破産財団からの優先的支払い(財団債権・優先的破産債権)
    破産法第149条により、破産手続開始前の3か月間の給与や、退職金のうち退職前3か月間の給料総額(破産手続開始前3か月間の給料総額の方が多い場合はその額)に相当する額は「財団債権」とされ、破産債権に先立って破産財団から随時弁済を受ける対象となります(※ただし、破産財団の資産が不足する場合には、管財業務の費用等が優先されたり按分弁済となったりするため、必ず全額が支払われるとは限りません)。また、財団債権とならない部分の給与・退職金や解雇予告手当についても「優先的破産債権」として一般債権より優先されるほか、東京地方裁判所をはじめとする多くの裁判所の運用では、破産申立てに伴う解雇予告手当についても裁判所の許可を得て「財団債権」に準じて優先的に弁済する扱いがなされています。
  • 未払賃金立替払制度による救済
    会社に売掛金や在庫などの資産がほとんど残っておらず、破産財団からも支払いを受けられない場合でも、裁判所による破産手続開始決定後に破産管財人から未払賃金等の証明書を発行してもらい、労働者が機構へ請求を行うことで、前述した「未払賃金立替払制度」を利用できます。これにより、退職日の6か月前からの未払い定期賃金および退職金の合計額(上限あり)の80%が国から支給されます。

この制度の適用条件や支給されるまでの期間など、より具体的な仕組みについては、【会社が破産したら給料は?未払賃金立替制度を弁護士が解説】をご覧ください。

特定の従業員への優先支払いや経営者個人の資産からの補填における注意点

給与や解雇予告手当の資金が足りないとき、責任感の強い経営者様ほど、独断で「良かれと思う行動」をとってしまいがちです。しかし、以下の2つの行為は破産手続きにおいて否認権行使や免責判断上の重大な問題を引き起こすおそれがあるため、独断で行うことは絶対に避けてください。

  1. 特定の従業員にだけ給与や手当を恣意的に優先して支払うこと
    「創業時から支えてくれた古参社員にだけは全額払いたい」「シングルマザーで生活が苦しい従業員にだけこっそり渡したい」といった心情から、一部の従業員にのみ不公平な支払いを行うことは慎むべきです。従業員も破産法上は債権者であり、債権の法的順位(財団債権か優先的破産債権かなど)を無視して特定の者にだけ優先して支払うと、支払不能後の時期や受領者の認識などの要件によっては、破産法第162条に基づく偏頗弁済(へんぱべんさい)として否認の対象となるリスクがあります。もし否認権が行使されれば、後から破産管財人がその従業員に対して受け取った金員の返還を求めることになり、従業員をさらなるトラブルに巻き込んでしまいます。資金が足りない場合は、債権の法的性質や他の優先債権との関係も踏まえ、必ず弁護士の指導のもとで適法かつ公平な配分方法を検討してください。
  2. 経営者個人の資産(預貯金や生命保険の解約返戻金など)から独断で補填すること
    会社の資金が足りないからといって、社長個人の資産を無計画に会社へ拠出して給与等の支払いに充てることも注意が必要です。法人と経営者個人は別人格であり、会社の従業員は原則として経営者個人の債権者ではありません。中小企業の法人破産では、経営者様ご自身が会社の借入の「連帯保証人」となっており、法人破産と同時に「経営者個人の自己破産」も申し立てるケースが多くあります。経営者個人も支払不能にある状態で、適正な対価なく個人資産を会社や第三者へ流出させると、債権者を害する目的や資金の帰属等によっては、個人破産の手続きにおいて否認の対象となったり、「不当な財産減少行為」として経営者様ご自身の免責判断に悪影響を及ぼしたりする(免責不許可事由が問題となる)おそれがあります。

会社の資金をどう動かすか、また個人の財産のうち何を生活費や手続費用に充て、どこまで適法に処理できるかは、必ず事前に弁護士へ相談し、法的に問題のない範囲で計画を立てることが不可欠です。

従業員へ伝える前に経営者が準備すべき説明内容と必要書類

Xデー当日、突然「今日で会社を閉鎖し、破産を申し立てます」と告げられた従業員は、強いショックと将来への不安に襲われます。説明会の場が紛糾したり、労働争議へ発展したりするのを防ぐために最も効果的なのは、「退職後のあなたたちの生活を守るための手続きは、会社側ですでに万全に準備してある」という事実を、具体的な書類とともに示すことです。

告知当日を迎える前に、経営者様が弁護士と協力して準備しておくべき説明事項と実務書類を整理しましょう。

従業員への破産告知に向けて必要書類や説明内容を弁護士と準備する経営者

告知当日に従業員へ誠実に伝えるべき説明事項

従業員全員を集めた説明会(または個別面談)では、経営者様ご自身の言葉で誠意をもって謝罪するとともに、代理人弁護士にも同席してもらい、法的な手続きの流れを冷静かつ正確に説明することが重要です。当日伝えるべき主な項目は以下の5点です。

  • ① 破産に至った経緯と謝罪
    なぜ事業継続が困難になったのかという簡潔な経緯と、直前までの告知となったこと(資産保全や混乱防止のため密行型で準備せざるを得なかった事情)、そしてこれまで会社に貢献してくれたことへの感謝と謝罪を誠実に伝えます。
  • ② 解雇日と解雇理由の明示
    いつをもって解雇(離職)となるのか(即日解雇か、予告期間経過後の解雇かなど)を明確に伝え、解雇理由が「会社の破産申立てに伴う事業廃止(会社都合)」であることを説明します。
  • ③ 最終給与・解雇予告手当・退職金の支払い見通し
    従業員が最も気にするお金の話です。現在会社から支払える金額と支払日、そして支払えない未払い分については、今後選任される破産管財人のもとで「財団債権等としての弁済・配当」や「未払賃金立替払制度」によってどのように手当てされるのか、具体的なスケジュール感を弁護士から説明します。
  • ④ 失業保険(雇用保険)や健康保険・年金の切り替え手順
    会社都合解雇となるため、ハローワークでの失業保険の受給において「特定受給資格者」として扱われ、原則として自己都合退職のような給付制限期間がなく(7日間の待期期間満了後から支給対象となり、失業認定を経て振り込まれること)、年齢や被保険者期間によっては所定給付日数も手厚くなること、また健康保険の任意継続や国民健康保険への切り替え手順を案内します。
  • ⑤ 会社貸与物の返却と私物の持ち帰り、今後の連絡窓口
    社用携帯、パソコン、会社の鍵、セキュリティカード、名刺、健康保険の資格確認書(交付されている場合)などの返却物を確認し、ロッカーやデスクの私物を持ち帰ってもらいます(※残務処理等で実際の退職日が後日となる従業員については、業務終了や資格喪失のタイミングに合わせて回収します)。事業停止後は会社への立ち入りが原則できなくなるため、今後の質問や書類のやり取りに関する連絡窓口(代理人弁護士や残務担当者)を明確に伝えます。

失業保険や社会保険の切り替え・未払い賃金の手続きに必要な書類

従業員が離職後にハローワークや役所での手続きへスムーズに動けるよう、以下の書類やデータを事前に準備・手配しておく必要があります。これらが迅速に出せるかどうかで、従業員からの信頼度と納得感は大きく変わります。

書類・データの名称目的・用途手配のタイミングと実務上の注意点
① 解雇通知書(解雇理由証明書)解雇の事実と「会社都合による解雇」であることを書面で証明するため【告知当日に交付】事前に弁護士と文面(法的な解雇日を含む)を作成し、当日全員に手渡します。離職票が届くまでの間、仮でハローワーク等へ相談する際にも役立ちます。
② 雇用保険被保険者離職票従業員がハローワークで失業保険(基本手当)を申請するため【離職日の翌日以降、最優先で手配】法的な離職日(解雇日)の翌日以降、ハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」を速やかに提出し、交付された離職票を元従業員の自宅へ郵送します。
③ 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届と資格喪失証明書国民健康保険や国民年金への切り替え、または任意継続の手続きのため【退職日に合わせて資格確認書等を回収し、速やかに手配】退職日(資格喪失日の前日)に合わせて、本人および扶養家族分の有効な「健康保険資格確認書」等が交付されている場合は回収します(※マイナンバーカード自体は回収しませんが、マイナ保険証利用者の場合も資格喪失届の提出は必要です)。あわせて、国民健康保険への切り替え等に必要な「資格喪失証明書」について、事業主が作成・交付するか、加入先の保険者・年金事務所等へ発行を依頼するかの方法と担当者を事前に決め、元従業員へ速やかに送付します。
④ 源泉徴収票・住民税の異動届出書確定申告や再就職先での年末調整、住民税の徴収方法の手続きのため【最終給与の確定後、速やかに手配】源泉徴収票を発行して送付するとともに、各市区町村へ「給与支払報告に係る給与所得異動届出書」を提出します。退職時期(1月〜4月か5月〜12月か)や最終給与・退職金の支払額に応じて一括徴収か普通徴収(個人納付)への切り替えかを判定し、破産により給与等が支払えず一括徴収できない場合の記載・処理については市区町村へ確認して対応します。
⑤ 賃金台帳・出勤簿・タイムカード・労働者名簿未払賃金立替払制度の申請および破産管財人による労働債権の調査のため【告知前に社内で確実に保全】従業員に渡す書類ではありませんが、誰にいくらの未払いがあるかを証明する決定的な資料です。紛失しないよう事前にデータを出力・保全し、弁護士へ引き継ぎます。
従業員への告知前後に会社側で準備・手配すべき重要書類一覧

社内に社会保険労務士(社労士)の顧問がいる場合や、経理担当者に残務を頼める場合は、これらの離職票や社会保険の資格喪失手続きをXデー直後にスムーズに行えるよう、事前に段取りを組んでおくことが大切です。

従業員へ破産を伝える前に弁護士へ早期相談すべき理由

ここまで解説してきたとおり、法人破産における従業員対応は、「いつ伝えるか」「限られた資金をどう配分するか」「当日の混乱をどう防ぐか」という極めて繊細な判断が求められます。従業員に破産や解雇を匂わせる前に、まずは法人破産の実務に精通した弁護士へ一刻も早くご相談ください。

早期に弁護士へ相談すべき理由は、主に以下の3点にあります。

  • 手元資金が尽きる前に相談すれば、従業員を守る選択肢が広がる
    経営者様が「なんとか自力で立て直したい」とギリギリまで粘りすぎて資金が完全に底をついてしまうと、解雇予告手当はおろか、破産申立て費用すら払えなくなってしまいます。少しでも資金が残っている段階で弁護士に相談いただければ、売掛金の回収タイミングを見極めてXデーを設定し、解雇予告手当や申立て費用を計画的に確保できる可能性が高まります。
  • 「退職日から6か月以内」という未払賃金立替払制度のタイムリミットがある
    従業員が国の「未払賃金立替払制度」を利用するためには、原則として「従業員の退職日(解雇日)から6か月以内」に裁判所への破産手続開始の申立て(または労働基準監督署長への事実上の倒産認定の申請)を行うことが要件とされています。弁護士に相談せず、先に従業員だけを解雇して会社を放置してしまうと、準備不足のまま6か月が経過してしまい、従業員が立替払制度すら使えなくなるという最悪の事態を招きかねません。
  • 説明会への同席や窓口対応を弁護士に任せ、精神的負担を軽減できる
    Xデー当日の従業員説明会に経営者様お一人で臨むのは、精神的に大変な重圧となります。弁護士にご依頼いただければ、告知までの綿密なスケジュール設計や必要書類の準備サポートはもちろん、当日の従業員説明会への同席、法的観点からの丁寧な説明、そして事業停止後の元従業員や債権者からの問い合わせ対応(窓口業務)まで一任していただくことが可能です。
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当事務所(再生の歩み法律事務所)では、これまで数多くの法人破産や労働問題に携わってきた経験から、経営者様の苦しいご心情に寄り添い、従業員の方々への影響を最小限に抑えるための最適な破産計画をご提案しております。

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